継代培養とは。
培養細胞の特徴的な増殖パターン
培養細胞の増殖は、接種後の誘導期から細胞が指数関数的に増殖する対数期に進みます。 接着培養の細胞が利用可能なすべての基質を占め、さらに増殖する余地がない場合、または浮遊培養の細胞のさらなる増殖を支える培地の能力を超えると、細胞増殖は大幅に減少するか、完全に停止します(下図 4.1 を参照)。 増殖が継続するために細胞を最適な密度に保ち、さらなる増殖を促すためには、培養物を分割し新鮮な培地を供給する必要があります。
![]() | 図 4.1: 培養細胞の特徴的な増殖パターン。 この片対数プロットは、培養に費やされた時間に対して細胞密度を示しています。 培養細胞は通常、標準的な増殖パターンに従って増殖します。 ばいようぶつを播種後の最初の成長は誘導期と呼ばれ、細胞が培養環境に順応しながら、急速な増殖の準備を行う、ゆっくりと増殖する期間です。 誘導期の後に対数期(すなわち、「対数的な」時期)が続きます。これは、細胞が指数関数的に増殖して増殖培地中の栄養素を消費します。 すべての増殖培地が消費されると(つまり一つ以上の栄養素が枯渇する)、または細胞が利用可能なすべての基質を占有すると、静止期(プラトー期)に入り、増殖は大幅に減少するか、完全に停止します。 |
いつ継代培養するのか?
継代培養の必要性を判断する基準は接着培養と浮遊培養で似ています。しかし、哺乳類細胞株と昆虫細胞株ではいくつかの違いがあります。
細胞密度
- 哺乳類細胞: 接着培養の継代培養は、コンフルエントに達する前、対数期増殖にあるときに行う必要があります。 正常な細胞は、コンフルエントに達すると増殖を停止し(接触阻止)、再播種したときの回復に時間がかかります。 形質転換された細胞はコンフルエントに達した後も増殖を続けることができますが、通常、約2 倍に増殖した後に劣化します。同様に、浮遊細胞はコンフルエントに達する前に対数期増殖にあるときに、継代する必要があります。 コンフルエントに達すると、浮遊細胞は凝集し、培養フラスコを回すと培地は濁って見えます。
- 昆虫細胞: 昆虫細胞の継代培養は、コンフルエントに達する前、対数期増殖にあるときに、行う必要があります。 しっかりと接着した昆虫細胞は、培養容器から剥離が容易にできるコンフルエントな状態で継代できますが、コンフルエントな状態を過ぎた密度で継代を繰り返した昆虫細胞は倍化時間の減少、生存率の低下、および接着能力の低下を示します。 一方、コンフルエントに達する前に接着培養で昆虫細胞を継代培養するには、単層から剥離させるためにより大きな機械的な力が必要です。コンフルエントな状態の前に繰り返し継代すると、これらの細胞もまた倍化時間の減少、生存率がの低下を示し、不健康とみなされます。
培地の枯渇
- 哺乳類細胞: 増殖培地の pHの 低下は、通常、細胞代謝の副産物である乳酸の蓄積を示します。 乳酸は細胞にとって有毒である可能性があり、低下したpHは細胞増殖にとって最適ではありません。 pH の変化率は、一般に、高濃度の細胞では低濃度の細胞よりも培地を早く枯渇するという点で、細胞濃度に依存します。 細胞濃度の増加に伴うpH の急激な低下(>0.1 ~ 0.2 pH 単位)が観察される場合には、細胞を継代する必要があります。
- 昆虫細胞: 昆虫細胞は、一般に哺乳類細胞に使用されるものよりも酸性の増殖培地で培養されます。 たとえば、Sf9 細胞の培養に使用する TNM-FHおよび Grace 培地のpH は 6.2 です。 哺乳類の細胞培養とは異なり、昆虫細胞は増殖するにつれpH が徐々に上昇しますが、通常は pH 6.4 を超えません。 しかし、哺乳類細胞と同様に、昆虫細胞がより高い密度に達すると、増殖培地の pH は低下し始めます。
継代培養スケジュール
細胞の継代を実施する場合、厳密なスケジュールを守ることで、再現性ある挙動が保証され、細胞の健康状態をモニタリングできます。 任意の播種密度から、一貫した増殖速度および細胞の種類に適した収量が得られるまで、培養の播種密度を変化させます。 このように確立された増殖パターンからの逸脱は、通常、培養が正常でない(例えば、劣化、汚染)、培養システムの構成要素が適切に機能していないこと(例えば、温度が最適でない、培地が古すぎる)を示します。 詳細な細胞培養記録を作成し、栄養補給と継代のスケジュール、使用した培地の種類、従った解離手順、分割比、形態観察、播種濃度、収量および抗生物質の使用をリストすることを強くお勧めします。
継代スケジュールに従って、実験や他の非日常的な手順(培地の種類の変更など)を実行するのが最適です。 実験スケジュールが通常の継代スケジュールに合わない場合は、細胞がまだ誘導期にあるか、コンフルエントに達して増殖が停止しているときに、細胞を継代しないようにしてください。
一般的な細胞株の推奨培地
多くの哺乳類不死化細胞株は、血清を添加した MEM などの比較的単純な培地で維持でき、MEM で増殖させた培養物はDMEM またはMedium 199 でも容易に培養できます。 しかし、特殊な機能を発現させる場合は、より複雑な培地が必要になる場合があります。 所定の細胞の種類に適した培地を選択するための情報は、通常、発表済み文献で入手でき、細胞の供給元や細胞バンクからも入手できます。
細胞の種類に適した培地に関する情報がない場合は、増殖培地と血清を経験的に選択するか、最善の結果を得るためにいくつかの異なる培地をテストしてください。 一般的に、接着細胞にはまず MEM、浮遊細胞には RPMI-1640 から始めてください。
昆虫細胞は、通常、TNM-FH 培地および Grace 培地など、哺乳類細胞に使用されるものよりも酸性の増殖培地で培養されます。
以下に示す条件は、新しい哺乳類細胞培養をセットアップする際のガイドとして使用できます。
接着細胞の解離
接着細胞を継代する最初のステップは、酵素的または機械的手段によって培養容器の表面から細胞を剥離することです。 以下の表は、さまざまな細胞解離手順を示しています。
操作 | 解離剤 | 用途 |
---|---|---|
振り落とし | 培養容器の穏やかな振り混ぜ、または激しいピペッティング | 緩く接着した細胞、有糸分裂細胞 |
スクレ―ピング | セルスクレイパー | プロテアーゼに敏感な細胞株、細胞の一部が損傷する可能性があります |
酵素的解離 | トリプシン | 強く接着した細胞 |
酵素的解離 | トリプシン + コラゲナ-ゼ | 高密度培養、複数の層を形成している培養、特に線維芽細胞 |
酵素的解離 | ディスパーゼ | 細胞を解離することなく培養皿の表面から無傷のシートとしてコンフルエントな状態で上皮細胞を剥離 |
酵素的解離 | Gibco TrypLE 解離酵素 | 強く接着した細胞、トリプシンの直接代替、動物由来物不含の試薬が必要なアプリケーション |
TrypLE 解離酵素
Gibco TrypLE Express および TrypLE Select は、微生物により産生された細胞解離酵素でトリプシンと同等の動態および切断特性を備えています。 Gibco TrypLE 酵素はプロトコルの変更を必要とせず、解離操作においてトリプシンの代替品として直接使用できますが、解離のインキュベーション時間を最初に最適化することをお勧めします。 TrypLE 酵素は組み換え真菌トリプシン様プロテアーゼであるため、動物由来物不含の試薬を必要とするアプリケーションに最適です。 以下の表に、TrypLE Express および TrypLE Select と、トリプシンとの比較を示します。
TrypLE Express および TrypLE Select | トリプシン |
---|---|
動物およびヒト由来成分は一切不含 | ブタまたはウシ由来 |
室温で 少なくとも6 カ月安定 | 室温で不安定 |
不活化を必要としない | 血清または他の阻害剤で不活化が必要 |
動画:細胞の継代
動画:細胞の融解
この動画は、このストレスの多いプロセスで細胞を損傷することなく細胞を融解する最良の方法を示しています。
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