一般的な制限酵素反応条件
制限酵素処理反応をセットアップするには、反応条件を最適にするために、酵素メーカーの推奨に従うことが重要です。考慮すべき重要なパラメーターには、基質(DNA)および酵素の量、反応容量、インキュベーション時間などがあります。
制限酵素処理反応をセットアップするには、反応条件を最適にするために、酵素メーカーの推奨に従うことが重要です。考慮すべき重要なパラメーターには、基質(DNA)および酵素の量、反応容量、インキュベーション時間などがあります。
従来の定義では、制限酵素1ユニットは最適条件下で規定の基質1 μg(例:プラスミドpUC19)を1時間で切断し50 μLにします。ユニット定義により測定形式が提供されますが、同量の制限酵素存在下での様々なDNA基質は、使用したDNA基質および基質タイプ中の認識シーケンス頻度に応じて、異なる最適要件を持っている場合があることに留意してください。実際には、DNAの品質や量のばらつき、そしてサンプルの性質のため、酵素処理を完全に行うためにメーカーはしばしば5~20倍の過剰な酵素量を推奨する(または酵素処理反応当たり1 μLの酵素)ことがあります。
制限エンドヌクレアーゼの効率的な活性のため、適切に保管し、メーカーの推奨する有効期限内に使用する必要があります。一般的に酵素は、活性を保ち凍結融解の繰り返しを最小限にするため、–20°Cで、なるべく小分けにして保存してください。DNAサンプルには酵素を阻害し悪影響を及ぼすヌクレアーゼ、塩類、有機溶媒(例:フェノール、クロロホルム、アルコール)、界面活性剤などの汚染物質が入らないようにしてください。
制限酵素は–20°Cでの凍結を防ぐため、一般的に50%グリセロールに入った状態で提供されます。しかし、グリセロールの粘度のため、反応セットアップ間に小容量の酵素をピペッティングや分注するのが困難になります。酵素を最後に加えて最終容量にするのが最もよく、加えたらよく混合してください。チューブの溶液をやさしく混合するには「はじき」、それから軽くチューブを遠心すると、酵素が反応混合物全体に分散し、反応溶液はチューブの底から回収できます。
インキュベーションの間、反応は目的温度に達していなければならず、インキュベーション時間を通して一定であることが必要です。これは酵素処理が5~15分で完了する「速い」制限酵素で特に重要で、インキュベーション時間が1時間の「従来の」酵素に代わって用いられています。反応チューブのシーリングは、長いインキュベーション(例:1時間を超える)かつ小容量(例:10 μL未満)で起きるサンプル蒸発を防ぐため注意して行ってください。
一般的な考慮点に加えて、実験を行う際は制限酵素処理に関する次の事項に留意してください。
スターまたは「リラックス型」活性は制限エンドヌクレアーゼ固有の特性で、最適でない条件下で、制限酵素が標準認識部位から少し異なる認識シーケンス上で作用することがあることを指します。例えば、図1で示したようにEcoRIは5’-GAATTC-3’部位を認識し切断しますが、そのスター活性により5’-TAATTC-3’および5’-CAATTC-3’で切断する場合があります。同様に、BamHIは通常の認識シーケンスである5’-GGATCC-3’に加えて、5’-NGATCC-3’、5’-GPuATCC-3’、5’-GGNTCC-3’(Nは任意のヌクレオチド)を切断することがあります。
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図1. 一般的な2つの制限酵素、EcoRIおよびBamHIのスター活性。 |
特に、最適な反応条件下では、「スター」部位での切断速度は標準認識部位よりずっと遅くなっています(差は約105~106)。そのため、過剰な制限酵素および長いインキュベーション時間(過剰な酵素処理)、またはそのどちらかが酵素処理中のスター活性の一般的な理由です。さらに、グリセロールの割合が高くなると(例:5%より大きい)、低い塩濃度、最適ではないpH、有機溶媒の存在、Mg2+以外の二価陽イオンが基質DNAの非特異的切断に影響することがあります。酵素メーカー推奨のプロトコルとバッファーを用いることで、スター活性は回避できます。
不完全な酵素処理は、制限エンドヌクレアーゼを使用するときよく起こる問題です。不完全な酵素処理は酵素が多すぎたり少なすぎたりすると起こることがあります。また、DNAサンプルに汚染物質が存在すると酵素が阻害され、不完全な酵素処理につながります。バッファー組成、インキュベーション時間、反応温度などの最適でない反応条件も不完全な酵素処理のよくある理由です。
K酵素活性に補助因子を必要とする制限酵素もあります。例えばEsp3I(BsmBI)はDTTが、Eco57I(AcuI)はS-アデノシルメチオニンが必要です。AarIおよびBveI(BspMI)のような制限酵素には、効率的な切断のために2つの認識部位が必要です。認識部位にオリゴヌクレオチドを付けたこれらの制限酵素が反応に加えられ、酵素活性を高めることがよく行われます。
反応条件や酵素特性に加え、DNAの性質が制限酵素処理で何らかの役割を果たすことがあります(表 1)。メチル化DNAは制限酵素による切断に耐性を示すことがあります(詳しくは「メチル化」セクションを参照)。酵素の認識部位が末端(直鎖基質DNAの場合)に非常に近く、また切断部位(ダブルダイジェストの場合)の間に近いことが、酵素によるDNA切断の効率性を決定することがあります。さらに、スーパーコイル型のDNAには直鎖DNAと比較して切断がより困難なものがあり、酵素の量を5~10倍にすると完全な酵素処理が可能な場合があります。
反応条件 | 酵素の要件 | 基質DNAの条件 |
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酵素メーカーは製品添付文書に推奨する使用法を掲載しているので、完全に酵素処理を行うにはそれによく従ってください。
メーカーの仕様に従っても、基質DNAの予期しない切断が起こることがあります。そのような落とし穴を回避するには、酵素とDNAだけでなく反応に使用する試薬にも汚染物質が含まれていないことが不可欠です(例:他の制限酵素、DNA、ヌクレアーゼ)。
予期しない切断の1つの原因は、増殖および増幅の間基質DNAに誘発される可能性のある突然変異です。突然変異は既知の制限部位を破壊したり新しい部位を作ったりして、予期しない結果をもたらします。DNAのサンガーシーケンシングは、突然変異が基質DNAの予期しない切断の原因かどうかを判断する有用な方法です。
予期しないパターンが酵素処理ではなく検出の結果である場合もあります。制限酵素にはDNAに強く結合しているもの(例:FokI、TauI)もあり、電気泳動で明らかなゲルシフトが生じます。SDSを含むローディング色素を使用し、切断されたDNAから酵素を加熱して分離すると、そのようなゲルシフトを防ぐことができます(図2)。
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図2. DNAに結合している制限酵素は予想される電気泳動バンドの上のバンドまたはスメアになる場合がある。 |
スター活性および不完全な酵素処理の両方もゲルで予想できないパターンを生じることがあります。そのため、トラブルシューティングのためには2つを区別することが不可欠です。区別する方法の1つとして、インキュベーションを時間経過で行います。インキュベーション時間が長い場合、スター活性が原因であれば予期しないバンドは一般的により明瞭になりますが、不完全な酵素処理が原因であれば消失します。さらに、予期しないバンドのサイズの区別に使える要素となります。スター活性による予期しないバンドの一部は予想より低く出ることがあるのに対し、不完全な酵素処理によるものはすべて予想された最小のバンドより上に出ます(図3)。
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図3. 不完全な酵素処理とスター活性の区別。 |
DNAメチル化は、真核生物および原核生物の両方で見られる最も一般的なDNA修飾です。細菌では、ファージ感染に対する制限修飾(R-M)免疫系の一部で(「制限酵素の基礎知識」を参照)、それにより宿主細菌が自己のDNAを内在性制限酵素で切断されないよう保護しています。メチル化は一般にシトシン(C)およびアデニン(A)塩基で起こり、主に5-メチルシトシン(m5C)、 N4-メチルシトシン (m4C)、 N6-メチルアデニン(m6A)誘導体を形成します。
DNAメチルトランスフェラーゼはメチル基をドナーからアクセプター塩基(例:AおよびC)へ移動させることでメチル化反応を起こします。実験室の細菌株中に見られる最も一般的なタイプのDNAメチルトランスフェラーゼには以下のものがあります。
哺乳類および植物系では、CpGまたはCpNpGメチル化は生物学的プロセスの意味を持つ一般的なDNA修飾で、エピジェネティックな研究対象として大きく注目されています。
メチル化DNA認識部位に対する制限酵素の感度は、制限酵素に依存します。例えば、図4で示したように、GATCにおけるDamメチル化はMboIを完全にブロックしますがDpnIを活性化します。一方、5′-CCGG-3′におけるCpGメチル化はHpaII活性をブロックしますが、MspIには何の影響もありません。場合によっては、制限酵素の活性がメチル化で部分的に阻害されるだけのこともあります(例:XhoI)。
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図4. 基質DNAメチル化に対する制限酵素の様々な感度。 |
細菌中でプラスミドを増殖させるとき、目的制限酵素へのメチル化の効果を考慮する必要があります。5′-GATC-3′および5′-CCWGG-3′でのメチル化を避けるには、DamおよびDcmメチラーゼがないコンピテントセル(dam–/dcm–)をプラスミド形質転換用に選択します。ほとんどのE. coli 細胞はCpGメチル化系を持たないので、細菌から分離したDNAにとってCpGメチル化は問題ではありません。ゲノムDNAが植物および哺乳類から抽出された場合、メチル化はCpG部位で起こり、メチル化感受性酵素によって直接制限酵素処理に影響する場合があります。
制限酵素を選択するときよく見落とされる重要な一面は、メーカーの製造工程と品質プロセスです。信頼できる結果を得て、実施する実験間でのばらつきを最小にするため、研究者は酵素メーカーが製品製造過程で実施する品質管理と品質保証に留意する必要があります。酵素を購入するときに考慮すべき主な問題には次のようなものがあります。
結局のところ、すべての制限酵素が同じにはできていません。製造工程、品質管理、品質保証は実験の成功に重要であるため、慎重に考慮する必要があります。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.